かげおくり/あ。
夏の空が広く見えるのは
余計なものが流されているからだろう
小学生の頃の一番の友だちは
国語の教科書と学級文庫と図書室の空気
頁をめくったときの薄っぺらい音と
綺麗に並ぶ印刷の文字が好きだった
ちいちゃんのかげおくりは
確か国語の教科書で読んだのだと思う
昭和初期、戦争時代の悲しい話だ
まだ年端もいかない子どもだったわたしに
戦争の意味を深く理解するのは困難で
ただ、かげおくりだけがこころに残り
自分の影を見つめて十数える
それから空を見上げると
影が白く抜かれて空に上がる
友だちとポーズをとりながら
一人で傍らにぬいぐるみを
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