mother コンプレックス。/かなた蒼空
 
誰もが出払った午後のリビングにかかる黒い掛け時計の、くるった時間を刻む音が、たまらなく好きです。
何か、いい。何故か、いい。

遠くの方、下の方の公園ではしゃぐ幼い子供たちの声が、やんわり耳に届くのも、たまらなく好きです。
やっぱり、いい。本当に、いい。


むかし、まだぼくの背がぼくの腰くらいだったとき。ぼくも、あんな風だったらたまらなく嬉しい。
そうだったら、いい。それが、いい。


37.5℃、学校から誰よりも早く帰ってくると、ふわり掛けられるお布団の、ほわほわがたまらなく好きです。
すごく、いい。あれは、いい。


くるくる回るメリーゴーランドのなかで探した、ウォーリーの赤と白の、チカチカがたまらなく好きです。
偽者が、いい。靴下が、いい。


夕暮れにあけた冷蔵庫に、バニラアイスがひとつだけ、ポツンと在るのがたまらなく嬉しい。
お母さんは、いい。お母さんは、いい。


小さな土鍋におかゆを作る、後ろ姿がたまらなく好きです。
お母さんが、いい。あったかくて、いい…



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