或る朝のまなざし/熊野とろろ
 
薄い雲が空から細かな雨を降らせている
明け方の曇り空の表情はあと二時間ほど経過したとしても
さして変わりはしないだろう

彼は窓を開けて煙草を吸う
二階の部屋であったが小高い丘に家が位置するため
漁村全体を眺望することが出来る
細やかで曖昧な雨を縫って霧が漁村を包み込んでいることが分かる
雲と靄の不明瞭な境目を目がけて
彼はゆっくりと浅く ふっと煙を口から燻らせた



見当通り、空は一向に表情を変えようとしなかった
居間の中央のテーブルに彼は座る
雨が晴れた朝よりもむしろ上品に静寂を演出する
彼は白い壁に掛けられたカレンダーを眺め
書き込まれた予定をなんとなし
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