なくことについて/志賀羽音
 
ていたのかはぼくにしか分からないように。





( きみの美しい黒の瞳は揺らぎ 短い睫を震わせて 微かに涙を零した 陶器の頬を伝うその涙を ぼくは赤い舌で舐め取る
  きみの涙は聖水のように清らかで ぼくの体に染み込んだ
  そしてまた きみは涙を静かに零し ぼくはそれを優しく舐める

「 もう、オルガンの音は、聞こえない 」

  聖母の微笑みは嘲笑に写る
  ステンドグラスの毒々しい光をぼくらは浴びた

「 もう、きみの声しか、聞こえない 」

  きみの華奢な声は ぼくを歓喜に震わせた

「 もう、鐘の音は、聞こえない 」

  聖母の姿は石像になる
  ステンドグラスは光を/色を失った
  ぼくはきみの声に/白に酔う

  きみの泣き声は 鳥の羽ばたき
  そして讃美歌の如く ぼくに幸福をもたらすだろう )
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