セバスチャンと一緒/佐野権太
ごを唄って
私が初めて笑ったときの、あの話を
まだ世界が
小さな部屋だったころの
*
セバスチャン
私のクローゼットの奥は
時の扉なの
ぜったいに秘密よ
しっ、誰か来るわ
きっと、私たちよ
*
セバスチャン、眠れないわ
竹細工の籠に
小豆を平たく転がして
そうして
さざ波をつくって
こぼさないように
ほら、もう
海がばらばらじゃない
*
セバスチャン
このあいだのお見合いの話
どう思う?
そういうの
慇懃無礼、って言うんだわ
あー、世の中が全部
セバスチャンだったらいいのに
*
わたし逃げるわ
どこまでも
足の短いキリンにのって
セバスチャン
あなたは後ろから
ゆったりとした大股で
鉄塔のようにやってきて
追い越しても振り向かず
夕日に立ち止まって
そうして
骨組みだらけの背中に
うす赤い蛍光を点滅させて
あなたのそういう叱りかた
嫌いじゃないわ
戻る 編 削 Point(17)