柊の夏/梶谷あや子
 
去年の8月
私に弟は居なくて
見なれない背中の同じ制服と
小さなヒイラギに似ていた
温かな水面に脈動する夜のはじめを
昂る夏がその都度握り潰し
ていくような予行

あなたが代わるがわる
その不思議なほほえみに混ざって
あれほど苦しかった
いとおしい食事を終えないままにした
おびただしく濡れたものに
今や触れることも出来ない私の指も
いつしか潤ったところから割れはじめ
けれど感じることで
奇跡は繰り返し起こる
瞼や 頬や つめの裏側
そこを
私達が深く抱いている

透かし模様に色とりどりの神様と
女のように白い襟を開いて
また訪れる8月
弟は出かけてしまったきり
硬い表皮の下から時折
私の顔を覗き込んでくる




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