「名」馬列伝(7) アサヒエンペラー/角田寿星
 
日本ダービー。有力馬の一角を担っていた彼に跨っていたのは、デビュー3年目にして弱冠20歳、ダービー初騎乗の中舘騎手だった。
返し馬を終えてスタート地点に戻ってきた中舘は、慌てて担当厩務員に告げる。
「佐川さん、大変だよ、大変だよ、跛行してるよ…」
美浦でも腕利きで通っている佐川厩務員が答える。
「ビビるな、跛行なんかいま始まったことじゃないだろうが…落ち着け」

大型馬特有の慢性の脚部不安に、悩まされ続けていた。
重度のソエがどんどん悪化し、ダービーの時にはすでに重度の繋靭帯炎に侵されていた。
デビュー以来、まともな脚の状態で出走できたことは、一度もなかったという。
佐川厩務員の
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