父さんの夢/小川 葉
 
 
 
鞄と間違えて
父さんが
枕をかかえて会社に行く
目を閉じたまま
夢を見てるんだろう

父さんは
目を閉じたまま電車に乗り
目を閉じたまま
タイムカードを押す
目を閉じたまま
ただ待つだけの仕事なのに
夜遅くにならないと
帰ってこない

眠そうな顔をして
母さんの
冷めた手料理をチンして
食べ終えて
やっと眠りにつく

父さんが眠る顔を
見たことがある
大きく目を見開いて
黒目がせわしなく動いてる
夢を見てるのだ

現実ではない
別な世界で
枕を鞄と間違えないで
会社に行って
目を開けたまま帰ってくる
僕の知ってる父さんが
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