熱帯夜/あ。
 
少しだけ冷たいシャワーを浴びて
乾燥したタオルで頭を拭く
拭いきれない残り水はしずくになり
首筋を伝い背骨を沿って落下してゆく


つつ、つう、つう


風ひとつないこんな夜には
ちょっと汗ばむ肌が似合う
きちんと乾かさなかった髪からは
相変わらずしずくが流れているが
シャワーの名残か新たに生まれた汗か
どちらなのかはわからない



使い古してすすけてしまった皿の上に
今年最初の蚊取り線香を乗せる
近所の喫茶店の名が書かれたマッチをすり
消えないように気をつけながら火をつける



やわやわと香ばしい煙が細くのぼる
窓を開けて網戸だけにして腰掛ける
手に持ったうちわはもう随分と古く
高校生のときに授業で作ったものだ
軽くあおぐと煙も合わせて揺れる



ゆら、ゆら、ゆうらり



風ひとつないこんな夜には
汗ばむ肌と古ぼけたうちわ
揺れる懐かしい匂いが似合う



戻る   Point(14)