夏休み最後の日に/吉原 麻
車の外に投げ出していた右手をステアリングに戻し
静かに流していたFMを切る
風に潮がまざってきた
午前二時の湾岸線は海を物語り始めた
首筋につたう汗の粒が
横長になって流れていく
あおってきた黒のシルビアを牽制しながら
彼はいつもの笑顔になった
その横で
時速160キロで流れていく夜景を眺めながら
いつ話を切り出そうかと迷い
次の瞬間黒い水面に映るたくさんの光に気をとられ
私はいつも忘れてしまう
芝浦で停まると
自販機の前で花火をしているカップルがいた
線香花火の侘しい束
ノースリーブから剥き出した女の白い肩
冷たくなってきた夜風を頭の後ろに浴びて
夏だったんだと思い出した
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