私の本/doon
 

 僕は
 アイデンティティを作ろうとしていた

 そうして社会に出た
 僕は群れの
 外れの
 小さな境目を見つめ
 そこへは行かなかった

 お金を手に
 家族を手に
 揺れる電車の中
 いつもと変わらぬ世界の
 どこにでもある幸せの
 私は
 私にしかない何かがきっとあると信じていた

 日曜が過ぎる
 月曜が来ると
 日曜はさっさと逃げてしまった
 
 他人と同じほうを向いて歩き
 僅かに左右に揺れ
 老いてゆく
 顔の皺が増えたことも
 鏡を見るまで
 忘れていた

 中学の頃の日記が
 押入れの中から出てきた
 一頻り読んで
 夢とか希望とか書かれた思いが
 私の中で柔らかく
 溶けてゆくような寒い
 物悲しさを煩わせた

 私が
 前よりいっそう子供の頃の
 思い出の本を捨てられなくなったのは
 言うまでもない
 
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