凡/柊 恵
 
朝靄の折々重なり薄紫に

ほのかに明るく心地よき

香りいづこより聴こゆ


水音の感ありて

寄れば俯く人影は

ゆるり振り向き穏やかに

微笑みたたえる女貴人の

後背の一段明るき際ありて

しづかに放たれる眼光の

想いを窺う能はず


ぬしよ

伝うべきあり

其が息子を之に迎え

此の河の渡し舟に載せ

凡に還す


期を早めたるは彼の罪なれど

因はぬしにも有れば

ただ其れを奪うも酷なり

如何を申せ


悪しきとも吾子なれば

因の吾に帰す有れば

神罰の要は吾に在り

元より


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