幼稚園に通っていた頃
いつもポケットに手を入れている女の子がいた
僕はそれがどうにも気になって
幼い知恵を引き出して思いついたのが
ジャンケンだった
「ジャンケンしようよ」って
僕が言ったとき
その子はとても驚いたようで
そしてしばらく考えてから
小さく首を横にふった
「ねぇ ジャンケンしようってば」って
幼い僕はしつこく求めた
その子はかたくなにこばみ
僕はそれでもジャンケンをせがみ
無理やりその子の手をポケットから引き出した
一瞬だけ見えたその子の指は
ひとつたりなかった
すぐに握りしめた手で
僕は叩かれると思ったけれど
その子は黙って
またポケットに手をしまった
※
今でも思うのは
その子の指のたりなさではなく
幼さを盾にして
やさしさを忘れていた自分と
その子の指をたりないと思った
とぼしい自分のこころ
たりないものは
そんな見えないところに在ることを
僕はまだ
本当にわかることができない