「たりない」/ベンジャミン
 
幼稚園に通っていた頃
いつもポケットに手を入れている女の子がいた

僕はそれがどうにも気になって
幼い知恵を引き出して思いついたのが
ジャンケンだった

「ジャンケンしようよ」って
僕が言ったとき

その子はとても驚いたようで
そしてしばらく考えてから
小さく首を横にふった

「ねぇ ジャンケンしようってば」って
幼い僕はしつこく求めた

その子はかたくなにこばみ
僕はそれでもジャンケンをせがみ
無理やりその子の手をポケットから引き出した

一瞬だけ見えたその子の指は
ひとつたりなかった

すぐに握りしめた手で
僕は叩かれると思ったけれど
その子は黙って
またポケットに手をしまった

 
  ※


今でも思うのは
その子の指のたりなさではなく

幼さを盾にして
やさしさを忘れていた自分と

その子の指をたりないと思った
とぼしい自分のこころ

たりないものは
そんな見えないところに在ることを

僕はまだ
本当にわかることができない

戻る   Point(9)