遺書(1)/虹村 凌
 
しながら、その幸せな空気を辺りに発散している。そしてそれに無自覚である場合が非常に多い。個人的には、そのどちらかが冷静になり、周囲を意識した瞬間、と言うのが面白い。挙動がとたんに堅くなる。その無様さは、見るに耐えないのだが、面白いのでついつい見てしまう。

 そんな短い間の人間観察の何が面白いかと言えば、その様に一瞬だけすれ違ったりする見知らぬ人間が、この日本国に一億人以上存在し、それらの内3000前後の人々が日々死ぬんである。誰が予想しようか?その多種多様な顔をした人々が、今日死ぬとは思わぬ人々が…中にはいるかも知れないが…、一日で3000前後、と言う俄かには信用しがたい数字を残して死ぬんである。
 勿論、その3000人の中に、俺が何時入るとも知れぬのだ。だから、俺は遺書を書く。書きたい。書こうと思っているのだ。
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