万引き少年/佐野権太
 
非常階段は
ぜんぶ空に途切れているから
僕の指先はどこへも辿り着けない

そうして
夕暮れは何度も流れて
僕の肩甲骨を
ないがしろにするのです

(お母さんに来てもらいますからね

*

かなしい、という白い文字を
空にのばして
薄くまぎれてゆく
そのゆくえを眺めている

人の幸せって何ですか
穏やかな微笑みって何ですか
ここに僕の欲しいものは何もない

(いいから、そのガムを返しなさい

*

さっきまで
ここにあったものが
なくなっている
うそじゃない
確かに
ここにあったんだ

空気が
かすかにゆらいだ瞬間
誰も気づかなかったのか
1コマのサブリミナルのように
パッとでて
パッと消えた
白い手首と一緒に

あれは
おそらく
光速を超えた
 ―――時の旅人

(わけの分からない言い訳ばかりしてないで
(名前をいいなさい

(白い恋人です
(あ、でも、もうじき変えます





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