雨の匂いをこらえている/佐野権太
鉢植えは
水をやり過ぎて
いつもだめにしてしまう
気持ちが強すぎるのだろう
あなたのようにはいかない
虹のような光沢を紡いだ糸車が
カラカラと終わりを告げても
流れる水のなかで
目を見開いたままの私は
光をうまく調節できない
まぶしい
夕暮れのほうから
あなたの輪郭がやってきて
また会えない、といって
永遠のようにゆれている
・
キッチンのすり硝子から
浅利の水深に
西日が突入する
白い内臓をはみ出しているのが
小さな私だ
リル、シェリル
砂と粘液を吐き出すばかりで
いつまでも
波音を聴かせてくれない
・
空と海の
かすんでゆく辺り
あれを
水平線と呼ぶのは
どうしてだろう
どこまでも空で
どこまでも海がいいのに
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