書かれた-叔母/非在の虹
折声が上がった。
叔母の声音の変化にこどもは気づいた。
叔母の後ろに周って
こどもは座布団になっていた。
気掛かりなのか
時折叔母は後ろに手を遣った。
叔母の呼ぶ声がした。
じっと子供は聞いている。
だんだん叫び声になって来た。
しかしこどもは動かなかった。
「叫んじゃいけない。囁け」
その声だけこどもには聞き覚えがなかった。
風上の叔母のうちにこどもは走った。
ようやく湿地帯が見えて来ると
その中に家々が点在し
その中に叔母のうちがあるのだ。
覚えのある匂いが漂って来た。
もう大丈夫だ。
華の匂い
仏華の匂いだ。
こどもはまだ眠っていた。
叔母はアサリを煮た。
見る間にアサリは口を開けた。
アサリの身が肉を際立たせ煮立っていた。
*
叔母とは密かに叫ぶ貝である
貝とは平面と立体を流れる膿の行方だ
悪臭を放つ腐敗の時刻に向かい
ゆったりと胸元をはだける
踏み込めぬ浅瀬
無明の満潮が迫っている
[グループ]
戻る 編 削 Point(2)