夏に至る/塔野夏子
 
夢が 微睡んでいる
緑の葉陰ものうく揺れる
やわらかな午後を

その瞼を 胸もとを つまさきを
うすい風が吹きすぎる

夢は そうして 自らを
夢みている あえかに甘やかに
その夢の水面(みなも)には うっとりと睡蓮が咲いている

夢よ せつないか 自らが夢であることが
こうして微睡みながら
自らに漂うことが

夢の口もとが かすかに微笑む
うすい風がまた吹きすぎる

水面に睡蓮は ただしずかに咲いている
緑の葉陰を肌に映し
夢は微睡んだまま 夏に至る




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