「そして静かに暮れてゆく」/ベンジャミン
かげろうみたいに揺れていた
道端に咲く花の名前を知らなかった
うつむきながら歩くのは
暑いからではなくて
探しものをしているから
交差点で泣いている少女を見かけた
優しい言葉をかけてあげられなかった
うつむきながら歩いても
探しものが見つからないことは
なんとなくわかっていた
優しい言葉なんて知らないってことも
ありふれたものの本当の名前を知らないってことも
それをただ認めたくないだけだったことも
静かに暮れてゆく
いつも通りの世界に波風をたてないように
こころをしまいこんでいた
そんな僕を
かげろうみたいに揺れる花が
まるで幻のように見つめていることにも
うつむいたまま
僕は気づかないふりをして
今日が暮れてゆくのを
ただ淋しいと思うことしかできなかった
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