手紙/かのこ
 



教室の窓際の席でさ
ルーズリーフのページがひらひらめくられて
あの子はそれを器用に切り取って
便箋に書いた“彼が好き”って

夏休み前の放課後
先生に呼び出し食らってね
“君の将来の夢は?”って聞かれて
小さな声で“オンガク”って答えた

周りに合わせてヘラヘラ笑ってばっかりで
伸ばした髪を栗色に染めてウェーブあてて
ついでにピアスの穴ももう2つ増やした頃
ルーズリーフのページを閉じた

僕がいなくなってもそれは続く
誰かと誰かの手紙は積もり積もる
金木犀が香るようになって
蓮の花が枯れて、泥になって
椿の花が落ちて、桜はまた

まだ大丈夫、もう大丈夫って言いながら
坂道を登りきった夕暮れ
誰もいなくなった教室
影を映し出す光の模様
天井の高い階段に誰かが弾くギターの音が反響して
“君が好き”誰かの言葉はひらひら花になって
陽射しの中を確かに辿った記憶、記憶は咲き散る
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