面接(6)/虹村 凌
の袖を引っ張り、
「歩くの早いし寒い」
と言った。俺は歩く速度を落とし、その女の手を握ろうとしたが、俺の手は何も掴めなかった。手首を廻し、その女の手の位置を探ったが、どこにも手は無かった。俺は心臓が一瞬で冷えてゆくのを感じながら振り返った。
どこにも、女なんていなかった。
ガタン、と言う大きな衝撃で目を覚ました。そこは俺が降りるべき駅で、丁度ドアが開き、みんなが電車からあふれ出る瞬間だった。俺は慌てて忘れ物が無いかを確認して、電車を飛び降りた。人にぶつからない様に追い越して、階段を駆け下りる。
嫌な夢を、見た。改札を出た所にある自動販売機に電子カードを当てて、天然水を買って
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