一つの夜/小川 葉
 
 
 
つきあって一月たちました

クリスマスイヴの夜
二人は別れました

それから二人は
それぞれの人生を歩み
やがて死にました

二人が死んでも
世界はあり続けました

一つしかない月が
二つに割れてしまう未来が
そこにあるとしても
世界はあり続けました

未来の世界には
クリスマスイヴの夜も
ちゃんとありました
クリスマスイヴという
呼称がなくても
一年でたった一つだけの
夜がありました

聖なる夜に
二人は別れました
それがこの夜空に浮かぶ
二つの月なのです
とでもいうような
そんなお話が流行る未来も
やがてあるのかもしれません
にもかかわらず

つきあって一月たちました

クリスマスイヴの夜
二人は別れました

それから二人は
それぞれの人生を歩み
やがて死ぬ
というお話だけは
二人が生きて出会った以上
変わることのない事実なのです

そこで交わされた
言葉があるならなおのこと
私たちがまだ
生きているならなおのこと

今は昔
そんなお伽噺が
ありました 
 
 
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