視聴覚混濁/taznu
 
看板によると高井戸の線路の脇の神田川は
源流から5.5km程下ったところだそうだ。
水面には川沿いの遊歩道から桜並木が暗い影を落とし、
時折濁った水の中で丸々と太った真鯉が
その堂々たる腹を反して鱗を黄金色に閃かせる。
目を奪われ、眺めているうち───チェロだ。
脳の中でチェロが鳴る。
6月の18時前。
自転車で走る私の視覚と聴覚の綯い混ぜになった感覚が
ポピー色の夕日と紺の天鵞絨の夜の混ざった桃色に似ている気がして
少し涙が出た。
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