綺羅花/あ。
まだ色を持たない紫陽花は
ふつふつと泡みたいな蕾をつけて
くすんだ背景に溶け込む
重たく湿った空気の匂いがし
右足の古傷がしくしくと痛む
身体は正確に天気を教えてくれる
もうすぐ、雨が降るよ
透けた絹糸のようなみずは
さらさら辺りを浄化していく
長く降ることはないだろう
指差した向こうの空は明るい
幕を引いたら景色が変わる
手品で最後に驚く場面みたいに
落ちていたしずくが止まるとき
きっと全てが色彩を放つ
たっぷり溶かした絵の具にも似た
瑞々しい色の紫陽花が花開く
見えないこころに沿って流れる
甘くて淡い、光る蜜
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