昼休み/小川 葉
やっと一人になれた
一人になることばかり考えていた
私は味噌ラーメンを注文して
食べながら美味しいと思っていた
やっと一人になれた
向こうのテーブルの女も
もはや人の形をうしなって
大きなものの一部になって
忙しくケータイで仕事のメールなどを打ち
手帳を開きペンと割箸を間違えて
期限切れの空を見上げると
もはや味噌ラーメンと見分けがつかない
器から溢れていく
長いものをすすりながら
油を吸うそれは人ではない
彼女を何かに変えてしまっている
返事を出してない
手紙ばかり増えていく
やっと一人になれたのに
追いかけてくる速度にのみこまれ
私の中で今食べたばかりの
味噌ラーメンがのびていく
たどり着けないその先へ
膨れ上がっていくだけの
病か何かのように
生きていくしかないものの
歪んだ影を路面に落とすと
あの日の太陽が
あの日のまま私を照らしていた
変わったのは
きっと私一人だけ
明日まで昼休みはもう来ない
来ないのかもしれない
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