果実の番号/歌川 至誠
森が
あれほどさわがしかったのを
夜はいっしゅんにしてねむらせる
あの懐のひろさ
そよ風のてのひらが降りてきて
いいんだよ
だいじょうぶ だよ
ひとりひとりの木々に
そういってきかせる
露を跳ねかえしあった梢らも
するどさを突きたてあった枝らも
音のない雨に抱かれて
ゆるしあってゆくのだ
*
夜
森のなかで
実の選別をした
少女のことを
ゆるしてくれるか
実の首をもいで
好きな順に
1・2・3・4・
番号をつけはじめた
人間の女を
夜
わたしには
ゆるせないから
ゆるしてあげて
あの悪意のない悪を
からだがすりきれるほど
ごろごろと石の上をころがって
川の水面にとびこもうとした木の実が
そのほとりで
少女の指に救われた
「あなたも 大切だから
逃げないで ここにいて」
この身があかくはじけて
0になるまえに
あのこをゆるして
わたしをゆるして
いいんだよ
だいじょうぶ だよ
その静けさのひとしずくだけ
いまはほしい
わたしは 2 の果実
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