初夏のメルヘン/銀猫
晴れた日の自転車は
ちりちりと
陽射しが痛くて
風を切ると
明るいシャツに羽虫のシミがぽつり
白や黄色の
果実の予感を湛えた花は
土埃の上で
清しく開き
匂いを放つでもなく
ただじっと
ちからを溜めて
夏に向かう
そういう季節のめぐりに
きみは周到に隠れて
乾いた洗濯物の感触や
ありふれたいのちのやわらかさで
わたしを
夏に運んで行く
それはおそらく
少しも珍しくない光景で
とりとめもなく過ぎ去る、
風に似た一瞬
(日向の焦げくささ)
(海岸通りの干からびた海草の匂い)
きみの匂いは
もっと太陽に近かった
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