9月/蒼木りん
 
9月は

臨月の母の腹に 私がいたのでした

空気が風が 金木犀色に満ちて

稲穂は波うち

大群のトンボの羽光らす 黄金の夕焼け

そのとき

ほんの暫く 時間が止まる


コスモスは

私が生まれるずっと前から

一年ごとの命を繋いできたのです


人の一生も四季を廻る一年ならば

もっと

ひたむきに生るでしょうか


9月は

腹の子の心臓が 知らぬ間に止まっていたのでした

病室で 黄色い花の鉢植えを見ながら

差し入れのケーキばかり食べてあげました

それで悲しみが少し

癒えたふりしてみせたのです

こころの奥の細道を 旅したことのない人と暮らしています


子宮をこじ開ける痛さが勝ります

お医者さま

あの子は やはり私が殺したのでしょう


背景にピントがあってしまって

私は

いくつになっても 他人に説教ができません


一年が廻って

9月を何度 見送っても

マニュアルさえ 理解できない人生です




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