記憶の終点/ばんざわ くにお
玲瓏の雲がたなびく
岸辺
ゲノムを運び終えた生き物たちが
崩れた山のように
積み重なって倒れている
おびただしい数の
生き物たちの目や口や鼻
牛や馬に混じって
人の体も横たわっている
ここは
ゲノムが支配しない世界
だから
恋愛もない
愛情もない
性欲もない
ありとあらゆる欲望が
ない世界
ただ太陽が
東の地平線から登って
西の地平線に沈む
こんな寂しい世界にきて
人体からはなれた記憶達が
水際の波に
洗われている
ちゃっぷ
きゃっぷ
ちゃっぷ
きゃっぷ
ちゃっぷ
きゃっぷ
たどりついた
記憶達は
永遠に漂
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