無縁/プテラノドン
 
力を備えた女が座る。

あなたと違って私の場合は―、旅先で見知らぬ人と話すことが出来たなら、
どんな旅でも無駄にならないのものよ、と彼女は言った。
「そのもしもに、もれなく自分も含まれているだろう」と男は自らを揶揄して
彼女を笑わせる。それで彼女が笑うなら
馬鹿になるのも悪くないと思う。これで朝が遠退くならば、と
グラスの酒を飲み干す。彼女はそれを許さなかった。
彼女の言い分はこうだった。わずかにあいた隙間から真実を垣間見ることもある。
そのために、鍵を閉めずに扉を開けておくこと。心の、玄関の。
「チェーンをかけるだけで十分。」

 少年だった時分に、母さんは僕を締め出すこ
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