また生きている/
刑部憲暁
また生きている
いまはもうないぼくのうちの
おもい雨戸をごとごといわせて
ようやくに閉めていると
ガラス窓がひび割れた音を立てる
夜の闇に音が駆け出す
入れ替わりに隙間から
夜気が静かに流れ込む
湿った空気を吸いこんだら
ぼくは懐かしい声を背に聴いた
いまはない庭からも
誰かが呼び掛けている
あれはぼくの息子とその友だちのようだ
でもぼくは
まだ雨戸を閉めている
また生きている
もういちど 生きている
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