コロナ/一ノ瀬 要
 
 
 
遊覧船に乗って
母がやってくる
薄い和紙のような島から
幾重にも重なった白い線を越えて
母がやってくる

手土産は櫛団子
毎年のことだ
おれは知っている
甘いのだめなんだよ
ほんとう言うと
母は知らない

おとうとが夜をする
夜をするため靴を履く
母や
おれたちの
ちょうど頭のてっぺん辺りを
上手に切り抜いて
それがまあるい
月になる

さあ
母を呼んでくれ
本を燃やした火が目印だ
めいっぱい燃やせ
裏も表も
影がなくなるほど燃やせ
あられもない姿で
おれたちはまあるい月になる
輝きを恐れず
ゆっくりと思い出す
ぜんぶ集めたら
泣きそうなおとうとよ


氷柱からひとつだけ落ちる雫を
葉の裏に潜む蝸牛の光沢を
おれは知らない
母は


虫の鳴き声に
目を覚ましたら
右肩から
流星群が零れる
母に似て
 
 
 
 

戻る   Point(2)