静かに消えてゆく/木屋 亞万
いかにも甘えた声で男を叱って
夜通し喘いでいた隣の部屋、
今は男が怒っている
机を叩いたり、ガラスか何かをがしゃんと言わせたりしながら
強い語気で呟くように何かを言っている、もう三時間もずっと
昨日はあんなにしあわせそうだったのに
今日はどうもそうはいかないらしい
昨日と今日は別の男か、はたまた同じ男なのか、どちらにしても悲しい結末
きよしろうが愛してますと叫んだときに
僕らは確かにしあわせだった
男女の愛していることを確かめ合う叫び声が
振れば鳴る鐘の音みたいにリズミカルに
コンクリートのアパートを甘く包んでいた
靴についている泥はいつのまにか干からびた砂になっ
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