金魚/あ。
夏祭りですくった金魚は
10年以上経った今でも元気で
水槽の中を気ままに揺らぎ
ときどき思い出したように
視線を合わせてくる
特に感情は見受けられない
小さな家の小さな水中で泳ぐおまえは
大海で生きるくじらよりも不幸なのだろうか
広い世界で生きるものが
広い視野を持っているとは限らなくて
狭い空気を吸うものが
薄い呼吸ばかりだとは思えなくて
水底にびいだまをたくさん沈めた
透けた硝子に光が屈折し
不思議な色合いを作り出しながら
ちらりちらりと背びれをうつす
おまえはきっと
わたしの満ち足りた胸のうちなど
気付いていないだろう
玄関を開ければ
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