イデアの国 /服部 剛
 
工場には 
一つの巨きい機械が常に作動し 
ベルトの上に運ばれる 
「商品」は次々に仕上がり 
( 巨きい機械を組織する 
( 無数の小さい歯車達は 
( 涙を流す、暇も無い・・・ 
  * 
パソコン画面の内側に 
一つの架空の家があり 
今日も無数の言葉は 
張り巡らされた回路を巡り 
( 指にふれない「一つ屋根の下」に住む 
( 独り独りのデジタル人形の胸に 
( 幻の赤い心臓が(ホント)を探して、脈を打つ・・・ 
  * 
いつのまにか 
偽りの機械の一部に、なっていた 
幻の家族の一員に、なっていた  
21世紀の人々は 
霞掛(かすみが)かった都会の空を 
突き破って飛翔する 
鳥になった、夢を見る 
やがて世界を覆う 
夜空を行き交い 
互いにすれ違ってゆく 
蛍の群の灯火達 
  * 
私は今 
自らの体重を乗せて撓(しな)る 
飛び込み台の上 
目の前には只 
茫漠と永遠の広がる 
「開かれた世界」 
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