ファミリーレストラン/岡村明子
 
家族が
微笑みあって食事をしている
目の前に出された献立はみなそれぞれ違うのに
年齢も性別も所属団体も違うのに
それぞれがそれぞれの話題を
提示してかきまぜて咀嚼して
家族スープになって
ゆるやかな繭の中に閉じ込められている
日曜の午後

かつて一番目を背けたかった光景があふれるこの時間に
私は敢えて一人で席をとっている

「ファミリーレストラン」なんて誰が考えた概念だろうか
こんなにも家族が崩壊したこの時代に
ここに集う家族の家庭や、いかに

ふと後ろを見ると、
背中合わせになっているソファーに男の子が
こちらを向いて立っている
母親は気づかない
男の子は私と眼があうと泣きそうな顔をした
私は一生懸命口の端を上向きに引いて歯を見せた
男の子は私の顔に触れようとしたが、
そのとき無数の白い糸が男の子を取り囲み
繭の中へ引き戻されていった

振り返り視線を落とすと
コーヒーカップの中に
ゆがんだ子供の私の顔


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