Phosphorescence/小川 葉
 
 
 
夢想家
それは夢の中にいるもうひとりの妻
夢を見ているもうひとりの私

夢の中に咲く花を
一度も見たことがない
現実の世界で
あなたは此処にいないから

その花の名前を
私はいつでもすらすら言えるのに
誰も聞いてくれはしない

二人はこの世界で
永遠に
渋いつぼみを演じ続ける
役者だった

水色のリボンつけた束髪
純白なジョーゼット夜会服
三重菊に溢れた階段をゆっくり登る
鹿鳴館

「私たちお花になってしまったのね、なんて花でしょう」
あなたは嬉しそうに尋ねる
私は静かに頷いて
花の名前をすらすら答える

「Phosphorescence」

別れを告げることなく
ある朝、目を覚ます

名も知らぬ花がふたつ
つぼみのまま
途方に暮れている
きっとこの空の何処かで
 
 
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