散髪屋/小川 葉
十分で千円の
散髪屋に行った
わたしはそこで
十分で千円分の
人生をくださいと
店主に言った
けれども椅子に座らされ
十分で千円分の
髪を切られてしまうのだった
わたしは知っていた
故郷と同じアクセントで話す
女がそこで働いてることを
生まれてもいないのに
姉がいることを信じて生きた
わたしのささやかな願いは
十分で千円の
効率を優先させるあまり
かなうはずもなかった
生まれたときは直毛でした
けれど思春期を迎える頃になると
少し癖が出てきて
姉は息を飲んだ
そして、ああ、と言った
それ以上話すと
十分で千円の効率
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