散髪屋/小川 葉
 
 
 
十分で千円の
散髪屋に行った

わたしはそこで
十分で千円分の
人生をくださいと
店主に言った

けれども椅子に座らされ
十分で千円分の
髪を切られてしまうのだった

わたしは知っていた
故郷と同じアクセントで話す
女がそこで働いてることを

生まれてもいないのに
姉がいることを信じて生きた
わたしのささやかな願いは
十分で千円の
効率を優先させるあまり
かなうはずもなかった

生まれたときは直毛でした
けれど思春期を迎える頃になると
少し癖が出てきて

姉は息を飲んだ
そして、ああ、と言った
それ以上話すと
十分で千円の効率
[次のページ]
戻る   Point(2)