前衛の女/蘆琴
 
灰色のビルの群れから
女ひとり
逃げ出してきた
太陽の汗が溶け落ちる海に
腫れ上がった踝(きびす)を浸すため
白砂に埋もれて眠るため

痩せた身体に疲れた眸
躊躇わずに飛び込んだ
――清潔な空のもとに
鴉の羽のような紫外線を浴びて
錆色の汗を払う
海に浮かべた後ろ髪――

女に纏わり付くものはない。
時間を脱ぎ、生活を棄て
遥か遠い地平線に頭を乗せて
秒毎古くなる海が、思い出を流し去るのを
足で掻きやる
死んだように、生きたように

女は光に溶け込んで
女は海に溶け込んで
女は砂に溶け込んで
女は人に溶け込んで
女は愛に溶け込んで

潤い
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