初夏、故郷にて/松本 卓也
緑色の風が薫る農道から
また少し小さくなった背中に
懐かしさと見馴れなさがやって来て
目頭を抑えることも忘れ
あてがわれた離れ屋に駆け込んだ
何で報いる事ができるのか
口に出そうとする前に訪れる
去年よりまた穏やかになった笑顔
昔から何も変わらない温もり
口を開けば多忙を言い訳にして
独り身の方が楽だと嘯いてみせ
夢の中ででさえ眠っているのは
抱きしめる者も居ない両手の冷たさに
育んでくれた優しさを伝えることもできない
我が身を呪っているからこそで
多分どこか誤魔化すような
自嘲が口の端を歪めるたび
叱ることも諭すこともなく
ただほんの少しだけ急かすのは
きっとそんなにも時間が無いから
ささやかに願う思いが
何を求めているのか
少しはわかるつもりだから
いずれまた風の色が変わる
穏やかな音と共に季節が巡り
あと何度貴女の元に訪れるだろう
心の底から微笑むことに
何の当てさえないけれど
少しは急いでみるつもり
後ちょっとだけ待っていて
不出来な末息子より
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