そのころ、それを聴いた僕たちは/水町綜助
留所で
植え込みの湿った土の匂いを
背中に嗅ぎながら
瞳の鳶色と
黒の曖昧な
わかれ方を
のぞき込んで
光がないから
みえなくて
光があれば
黒く濡れているなかに
僕の黒い真円が映って
その中に暗闇を映し返して
どこまでも続いていくのに
光がないから
深い森の中
美しい沼のような
アパートに沈み込んでいくことになる
静かな音楽を聞きながら
そこには丸いオレンジのような夕陽が射し込んだけれど
長く届きすぎる光は
いくらか乾かすので
あるいていけるようになる
僕は森の外から目を細めて
木立の間にかすかにゆれる沼を
そこで泳ぐ男のすがたをみている
左目に広葉樹の斑な影を張り付けて
*
五月雨が降って
路傍の
彼女の吐き出したものを洗い流す
曲名だけを浮かべて
音は流れない
雨は降り続いている
夜の間中
肩に雨粒の冷たさを感じながら
晴れ渡った夜空を僕たちは想像する
それは濃紺で
僕たちを
街の公園の
噴水の中に落ちている
十円玉を見ただけで
笑わせるほど
馬鹿げて
揺らいで
滲んで
とても
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