そのころ、それを聴いた僕たちは/水町綜助
いつだって窓は
逆光に黒いコンクリートを四角くくり抜いて
冷たさと
まだ見ぬ町と
まだ起こらない出来事と
未だ語られない言葉と
遠い町の中を走り抜ける音で彩色された
真っ青な空を映していた
僕たちがそこにいたころ
屋上という屋上は鍵をかけられていて
鍵を持っている老人の取り越し苦労は
逆説的に地下鉄の走行音だとかに取って変えられたようだった
たぶん僕たちは何がしたかったわけでもなく
ただ、あの歌のように
そこで真っ青の中に溶けていく
ゆううつの翳りと
発泡性のある日々の音を聴きたかっただけだった
そして僕たちは
ノブを壊すほど衝動的でもなかったし
もちろん
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