海の人/ふるる
 
小さな巻貝の奥に
灯りがともる
小さな海の人が
書き物をしている
波から聞いた話を
青いインクでしたためる
書き終えると
小さくてごく薄い紙片を
丁寧にたたみ
小さな封筒に入れて
小さな切手を貼り
通りかかった魚に託す
ゆうべ、波打ち際で泣いていた女の子
あの子に届けて欲しい
魚は海鳥にそれを預ける
お礼に 鯨が失恋したことのてんまつを教えるから、と
海鳥はくわえていって
今夜も波打ち際で泣いている女の子のひざに落とす
小さな花びらのような手紙
封はひとりでに開いて
ごく薄い紙片がすべり落ち
女の子のひざの上で消える
女の子は波の話を聞いたような気がして
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