おもかげ/きりはらいをり
 
何も考えずに歩けば
いつだってこの場所へ着く

誰もいない海岸
太陽に煌めいて静かに凪ぐ
灰色の水面

崩れかけた
防波堤によじ登って
波にせり出した端の端に立って
そっと両腕を広げる

ああ、
ここから見える限りの世界が
自分のものになった気がした

見える景色は
ずいぶん変わってしまった
それが
いいのか 悪いのか―

だけど この海と
そこを抜けていく風は
少しも変わっていなかった

ずっとここにいるよ、と
言っていた

涙が出そうなぐらい
懐かしいにおいだ

あの頃とおなじ 潮の音が
何年も ずっと前から
君はここにいたんだ、と
囁くから
嬉しくて鼻が痛くなるよ

誰もここを知らないわけじゃないけど
ここが
僕の”帰る場所”と
まだ誰も知らない
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