象の出来事/小川 葉
駅前で
象が似顔絵を描いてる
めずらしいので
たくさん人が集まってる
似顔絵はとても上手だけれど
鼻だけ象みたいに長いので
群集の歓声はどよめきに変わる
目から涙が零れてる
目だけ見てると
人のようにも見えるから
群集はみな
家族のことを思い出してる
象がどこで生まれ
どのように暮らし
なぜ駅前で似顔絵を描いてるのか
知ることもなく
人は家に帰ると
今日一日の出来事を
家族に話して眠りに就く
夢の中
象の出来事を
誰にも話してないことを
ふと思い出すけれど
朝になれば忘れてる
駅前に
象はもういない
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