光を見たその場所で/
小川 葉
階段をのぼる音がする
子供のからだのまま
大人になってしまったこころで
夕暮れ
母は一尾の魚をさばきはじめる
命の尊さも
生きることの残酷さも
何も語らずに
父は形のあるものを
信じてきた
形だけではないものが
この世界にあると知っても
大人になった
わたしの形を見てくれることはない
誰もいない家がある
古い戸が開く音がして
誰かが暮らしている音がする
泣きやまない
生まれたばかりのわたしが
はじめて光を見た
その場所で
戻る
編
削
Point
(2)