光を見たその場所で/小川 葉
 
 
 
階段をのぼる音がする
子供のからだのまま
大人になってしまったこころで

夕暮れ
母は一尾の魚をさばきはじめる
命の尊さも
生きることの残酷さも
何も語らずに

父は形のあるものを
信じてきた
形だけではないものが
この世界にあると知っても
大人になった
わたしの形を見てくれることはない

誰もいない家がある
古い戸が開く音がして
誰かが暮らしている音がする

泣きやまない
生まれたばかりのわたしが
はじめて光を見た
その場所で
 
 
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