「蟻と会話をする少女のお話」/ベンジャミン
に話してくれた
「噛まれてから、蟻の言葉がわからなくなってしまった」
要約すると、そういう話だった
もうその蟻と話をすることができないので悲しいという
僕は大人ぶって、仲直りすればまた話せるようになるよと慰めた
「噛まれてから、他の蟻と区別がつかなくなってしまった」
要約すると、そういう返事がかえってきた
事の重大さは、僕が思っていた以上のようで
けっきょく少女は、その日一日を泣いて過ごした
蟻と会話をする少女といっても
それほど不思議な出来事ではない
同じ言葉で会話をする僕らが
共通の言葉を失ってしまったなら
そう考えると大人ぶっている僕だって
言葉以上に失ってしまうものの大きさに
本当の意味で気づくことは簡単なことではないからだ
戻る 編 削 Point(6)