名前/葉leaf
 
 名前と名前が結婚して名前が産まれる。だが、名前は単身で別の名前を生み出しもする。名前が名前を生む鎖状の射影、その核にはさらに名前が含有されている。例えば画家が一筆一筆名前を連鎖させていく、その様式の核に散った名前がその絵の題名だ。
 死んだ名前の堆積する都市にて、ほつれ続ける建築の茎は、名前を重力の焦点で溶かして、存在の速度として甦らせる。夜になれば建築の窓には一斉に名前が点灯する。「905号室の明かり」という名前は、905号室の明かりの存在する速度に他ならない。
 分裂した名前が響き尽きる大陸の、声紋と声紋とが差異を盗み合う土地で、私はかつて、「広田修」という名前だけでなく「私」という名前
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