月を放つ/結城 森士
1.
十年前に読んでいた国語の教科書を見つけて
ぱらぱらと捲っていると
ふと、過ぎ去った時間の重みに圧され
ぱたりと表紙を閉じたのです
その拍子に
群青色の背表紙に描かれた黄色い三日月が
ぼんやりと夜空に駆けあがっていきました
2.
暗闇の中に
パソコンの明かりだけが灯っていて
部屋の中は
まるでモノクロの写真だ
夢の中で
逃げ遅れたサルバドール・ダリが殺された
3.
やはり十年前
夕飯を食べ終わった姉が
「ごちそうさま」と言わずに
「ただいま」と呟いた
あの時は
家族全員で笑い転げたが
もう二度と姉が帰ってくるこ
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