『日記帳』/東雲 李葉
子供のころ憧れたランドセルは不便で固いカバンだった。
着てみたかった制服は暑苦しくて寒かった。
お昼休みのお弁当はいつも同じでつまらなかったし、
大人になってしまった今では憧れているものなんてない。
街は立ち止まることも許さず信号はチカチカ人を操る。
感傷に浸った分だけ知らない人が増えていくから、
何にも思い出さずにただただ目の前の日々を。
訳もなく疾走していた。あの日僕は何を見ていた。
多分何にも考えていなかった。だけどそれでも許されていた。
子供のころ憧れた大人はこんなにくたびれていなかった。
僕は今誰の描いた未来にいるのだろう。
小学生のころ、中学生は悪ガキで高校生は大人びていて、
僕はずっといつまでもこのままでいられる気がしていた。
お父さんは厳しくてお母さんは怒ってばかりで。
ずっとずっといつまでもそのままでいると思っていた。
誕生日には必ずケーキを食べていた僕は間違いなく幸せだった。
今はもう同じ日付を捲るたび寂れるだけの日々しかない。
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